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NFTの出現とアーティストの新たな賭け
翻訳 : 髙橋洋江
NFTの出現とアーティストの新たな賭け - レオナルド・ダ・ヴィンチからクリプトキティ(Cryptokitties)1まで
1992年12月3日に通信事業者Vodafoneが送信した史上初のSMS「Merry Christmas」が、2021年末に、有名オークションハウスAguttesの競売で、非代替性トークン(Non-fungible Token (NFT))として107 000ユーロで落札された。他の多くの例と共に、NFTの経済的重要性の高まりを示している。
この新しい無形「資産」に関する法的理解を深めることは、問題点を理解し、既に問われている法的、あるいは契約上の疑問に答えるために不可欠である。
非代替性トークン(Non-fungible Token)- 識別と機能
NFT : この仮想資産への具体的なアプローチ
NFTは、唯一(他のものと互いに代替不可能な)、かつ、不可分(分割不可能な)なデジタルトークン2である。
これはブロックチェーン技術の一部であり、先験的に改ざん不可能で不変の、大規模な分散型グローバルレジスターのようなもので、この中で当該NFTに関するあらゆる取引が追跡される。
NFTは、特にデジタルアートの分野に適している。デジタルアートの分野では、実際のところ、複製が非常に容易で、ほぼ無料かつ無限に行うことができる。
そこで、NFTによって、特定の作品と、個別のトークンとのユニークな結びつきにより、デジタル世界に希少性の概念を再び導入することができる。
実際には、NFTは、「スマートコントラクト」と呼ばれるブロックチェーンに記録されたコンピュータプログラムによって生成され、このプログラムは、当該NFTに関するそれぞれの取引の間に、自動的に実行される。この「スマートコントラクト」は、NFTの発行者が実行の条件を定義しており、そのURLリンクによって、唯一の識別子(トークン)とそれをサポートする作品を結びつけることが可能になる。
作品とそれに付随するメタデータ(作品名や説明、作者、正規版の流通数、作品へのリンク等を示す、当該作品に関する情報)は、第三者のサーバで管理される。
NFTの全ての取引は、「ウォレット(wallet)」と呼ばれる、各「コレクター」がデジタル作品を展示する個人ギャラリーに相当するツールを通じて、マーケットプレイスに当たるプラットフォームで行われる3。
NFT : このトークンの使用と機能
現在、デジタル作品に付されたNFTは、作品そのものではないことが認められている。
この場合、次の三つの無形資産を考慮する必要がある : 知的作品、作品のデジタル媒体、そして、NFT。
知的財産法典(Code de la Propriété Intellectuelle (CPI))第L 111-3条が「作品の媒体を作品と混同してはならない」と定めている物理的世界と同じく、デジタル作品は、それを収めたファイルと同じではない。デジタルファイルは、実体がないとはいえ、そのコンテンツと混同してはならない4。
コンピュータファイルに含まれる作品の「トークン化(tokenisation)」、すなわちNFTを関連付けることで、特定の重要な情報を変更不可能な方法で添付することにより、このファイルを(数、及びその特性において)唯一のものにすることができる。
しかし、NFTの譲渡は、交換されるものが作品自体やその媒体ではなく、関連する固有のトークンである限り、作品に対する著作者の権利の譲渡を意味するものではない。
この区別は、NFTの売買を扱うプラットフォームの利用条件で確認することができる。各プラットフォームは、取引が、限られた個人的な使用の権利に関するものであることを実質的に明記しており、一部のプラットフォームでは、非独占的な使用ライセンスに言及しているものさえある。
したがって、NFTの本質は、その非代替性(互いに交換できない性質)によって、媒体が真正であることを保証する証明書、あるいは「所有権の受取書」すなわち、作品のデジタル媒体に経済的価値と魅力を付与する証明書に相当する。
また、NFTを生成する「スマートコントラクト」に具体的な規定がないため、その所有者の特権は非常に限定されており、作品に付随する人格権や財産的な権利も含まれない。
一方、NFTを生成するスマートコントラクトに規定された条件を通じて、これらの特権が調整される場合、アーティストは、当該NFTの譲渡が、作品に関する財産的な権利の全部又は一部の譲渡を伴うと決めることができる場合がある5。
この定義が確立されると、アートに適用されるNFTは、著作権とどのように連携するのかという疑問と注目点が生じる。
NFT : 著作権に関する不確実性と注意点
契約に含めるべき、新しい利用の方法
CPI第L 131-2条、及び第L 131-3条に従って、作品に付随する著作権の譲渡は、書面で確立され、「その範囲と用途、場所および期間に関して画定」されなければならない。
あらゆる芸術作品は、先験的に「トークン化が可能(tokenisable)」であることから、現在、クエンティン・タランティーノ監督と制作会社ミラマックスとの間で起きている訴訟に見られるような、この点に関する当事者間の将来的な争いを避けるため、利用契約においてこの問題を検討することが強く推奨されている。
この事件は、映画「パルプ・フィクション」の未使用シーンをNFTとして販売することを発表したタランティーノ監督を、制作会社ミラマックスが著作権侵害で、米国の裁判所に提訴したものである。
再販権の概念の変遷
芸術作品に関しては、再販権によって、著作者及びその権利所有者は、作品の譲渡の際に、経時的な報酬の利益を得ることができる。
CPI 第 L 122-8 条と R 122-2 条は、フランスにおける再販権の適用条件を規定している。そして、再販権が適用されるためには、唯一又は限定された数で制作されたオリジナル作品が、芸術品市場の専門家によってフランス領内で取引され、付加価値税が課されている必要がある。
インターネットの世界的な広がりと、ファイルに収められた作品が無限に複製可能であることに照らすと、デジタルアートの取引の場合、上述の累積的な条件を満たすことは難しい。
そこで、芸術作品の「トークン化」は、こうした困難を克服する方法となり得る。NFTによってファイルに収められた作品のバージョンが唯一のものになり、ブロックチェーン技術によってNFTの真正性が保証されるとともに、それぞれの取引の特徴を把握できる。さらに、NFTの最初の発行者には、大きな自由度が与えられており、NFTを生成する「スマートコントラクト」に、当該NFTの将来の全ての販売に際して、転売価格の一定の割合を徴収できるオプションを設けることができる。
このため、NFTの発行によって、ブロックチェーン技術により、NFTの最初の発行者が容易に追跡が可能な、一種の「契約上の再販権」を生み出すことが可能になる。
この問題に関する最初の判例が待ち望まれるところである。
結論 :
NFTのテーマは、経済的な利害関係が非常に大きく、解決策もまだ不透明であることから、今後、判例上で話題になることは必至だろう。
同時に、NFTはメタバースの到来と共鳴している。実際に、三次元のパラレルデジタル世界では、「現実」世界と同じように、唯一で代替可能性のない資産を所有することで、その所有者は大きな価値のある権利を得られる。
デジタル世界における所有権の重要性と、その対象となる資産の無体性に照らすと、それ自体は全くもって仮想でない新しい経済活動の安全性と予測可能性を確保するために、これまで以上に知的財産法の専門家の支援が不可欠である。
1 クリプトキティ(Cryptokitties) : 仮想の猫の肖像を収集するゲーム。
2 2019年5月22日付Pacte法 n° 2019-486で、通貨金融法典L.552-2条がトークンを定義している。
3 Ethernity, TopShot, Opensea, Rarible, SupeRare, Foundation等のマーケットプレイス。
4 この基本的な区別は、Ubisoft vs Oracleの判決 (CJUE 12 juillet 2012, C128/11)でも確認された。
5 例えば、アーティストのClarian Northの例がある。ニューアルバム「Whale Shark」をNFT販売プラットフォームに出品し、NFTの購入者はアルバムの出版権も所有し、アルバムのヒット次第で長期的に収益を得られると明記している。