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商標の種類を「位置商標」又は「図形商標」と記載することは、 真正な使用の証明に影響を与えるか?
位置商標か?図形商標か?
位置商標はいわゆる「非伝統的商標」の一つで、商標が製品に付される特定の方法から成る商標である。
位置商標は、ファッションの分野で、例えば、以下のような要素を保護するために頻繁に使用されている。
- 靴の装飾要素 :
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N° 017901400
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N° 018033368
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- 衣服の装飾 :
N° 018021972
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N° 018021831
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N° 018015719 |
- 眼鏡のフレーム :
N° 018017536
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N° 018017541
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N°018072082
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EU指令2015/2436がEU商標規則に反映されて以来、これらの商標は、位置商標として出願できる。これらの商標は、以前はほとんどの場合、図形要素と独自の様式や色から成る図形商標として登録されていた。
それにもかかわらず、EUIPOの審査ガイドラインは、願書の説明の欄で当該商標が実際には位置商標であることを明記し、当該商標を実線で表現する一方で、保護から除外される製品上における当該商標の位置を示すために破線又は点線を使用することを推奨してきた。
このため、位置商標の使用を証明する必要があった際に、問題が生じる可能性があった: 図形商標として登録された商標の要素が位置商標として使用され、かつ、その保護が主張されていなかった場合、これらの要素は考慮されるべきか?
この問いが、最近2019年6月6日、欧州連合司法裁判所に提示された(C-223 / 18P Deichmann SE / EUIPO - Munich SL)。
事件の背景と判決
企業MUNICH SLは、2002年11月6日、スポーツシューズについて、以下のように表現されたEU商標n°2923852を出願した。
この商標は、出願時に有効であった審査ガイドラインの要件に反して、商標の説明の欄に当該商標の実際 の性質を明らかにする何らの記載をすることなく、「図形商標」として出願された。商標の写実的表現に関し ては、二つのタイプのグラフィックデザインが使用されていた。すなわち、一つは当該商標でカバーされる製 品の外観を表現する破線又は点線、もう一つは製品に付された十字形を表現する二本の実線である。
MUNICH SLは、側面に大きな十字形を付したスポーツシューズを販売していた企業Deichmannに対して、こ の「図形商標」のEU商標登録に基づいて侵害訴訟を提起した。
Deichmannは、この「図形商標」が真正な使用に置かれていないと主張して、登録から5年以上経過していた この登録図形商標の有効性に異議を唱えた。議論は、MUNICH SLが提出した使用証拠の許容性に集中し た。上訴人であるDeichmannは、証拠は「位置商標」の使用を示す一方、当該商標は「図形商標」として出願 されたことに鑑みて、証拠の許容性を争った。Deichmannは、破線又は点線は、問題になっている商標の不 可欠な部分であり、当該商標は「図形商標」以外のいかなるものと見なすことはできないと主張した。
この問いに対する回答は極めて重要であった: 願書に示された「図形商標」の記載が維持されるなら、当該 商標は、出願された標章全体として使用されるべきなのか?それとも、「位置商標」としての商標の使用が考 慮されるなら、製品上の位置を示す要素として使用されるべきなのか?
問題になっている商標の有効性に関して審理を中断した裁判所の要請で、この問題はEUIPOに持ち込まれ た。本件でEUIPOの審判部は、出願時に記載された商標の種類は、その商標の使用が記載された商標の種 類との関係で必然的に評価されるという結論を必ずしももたらさないと認めた。
そしてEUIPOは、商標の使用の証拠を提供するに当たって、商標の表現における破線又は点線は、当該商 標がたとえ「図形商標」として出願されていたとしても、主張された保護を実線で示された十字形から除外す るものが何もない限りにおいて、考慮されるべきではない、とした。
この検討は、一般裁判所(General Court)並びにその後、欧州連合司法裁判所によって確認された: 「一般 裁判所は、求められている保護が実線で表現された二本の黒い交差する線から成る十字形のみに関係し、 スポーツシューズの外形とその紐を形づくる点線は、スポーツシューズの側面のグラフィックデザインの位置 の境界を定めるのを容易にすることだけを意図していることに注目した時に…、商標の真正な使用があるか を評価するために、その商標の種類に関わらず、本質において、問題になっている商標の写実的な表現に 依拠した (para. 41)。当該商標の内容の確定に関して重要なことは、『商標の写実的表現が、明確、正確、自 己完結的、容易に利用可能であり、理解可能であり、耐久性があり、かつ客観的でなければならない』という ことである (para. 44)。問題になっている商標が『図形商標』として登録されている事実は、保護を求める出願 の範囲を定めるために、ここでは関係がない (para. 47)。」
当所コメントこの判決から何を考慮すべきか?
問題になっている商標の出願時(2002年)、EUIPOの審査ガイドラインは、位置商標がそれとして明確に記述 されることを要求していた。しかしながら、欧州連合司法裁判所のこの判決は、「審査ガイドラインは、EU法 の条項を解釈するための拘束力のある法令ではない (para.49)」と指摘した。
欧州連合司法裁判所は上訴を棄却し、「位置商標」ではなく「図形商標」としての商標の種類は、真正な使用 の評価に際して無関係であるという一般裁判所の見解を支持した。裁判所は、十分な正確性を有した商標 の写実的表現から直接、保護は実線で表現された二本の黒い交差する線から成る十字形のみに求められ ていると推定した。 しかしながら、その当時の審査ガイドラインに従ってされた出願であれば、当該商標が「位置商標」であるこ とを示した商標の説明を含んでいたであろうし、そうであればおそらく、使用の証拠の許容性に関するこの議 論を避けることができたであろうことに注意することが重要である。
2017年10月1日から、欧州委員会実施規則(Commission Implementing Regulation (EU))2017/1431が、位置 商標について以下を要求していることに注意すべきである。「位置商標は、関係する商品に対する、当該商 標の位置、並びに大きさ又は比率を適切に特定する(商標の)複製を提出することによって表現されるべき である。登録の対象の一部を構成しない要素は、望ましくは破線又は点線によって、視覚的にディスクレー ム(権利不要求)されるべきである。(商標の)表現には、当該標章が商品にどのように付されるかを詳しく述 べた説明を添えることができる。」
「図形商標」の「位置商標」としての使用の許容性に関して本件で裁判所に提示された問いは、商標の種類 との関係において、いくらかの柔軟性と実用的な考えを示している。これは、新しいタイプの商標(位置商標、 音商標、マルチメディア商標、等)の出願が増えるにつれてもその通りだろうか?異なる種類の商標の間の 衝突を解決する必要があるだろうか?
PLASSERAUD IP(プラスローIP)の専門家は、皆様がフランス及びEUIPOで商標として保護しようとする標章 の最も適切な種類を探り、適切なステップを取るべくご支援します。